すべての営業マンにチャンスがある! FDEの本質的な価値について考える。

最近、「FDE」という言葉をよく聞くようになりました。
FDEとはForward Deployed Engineerの略で、顧客の現場に入り込み、課題の発見から技術的な解決までを担う役割を指すようです。
よく聞くFDEのイメージとしては、エンジニアが最前線で顧客とのコミュニケーションまで担い、直接対話しながらシステムを作る姿だと思います。
しかし、営業人材の筆者は、その逆の考えもあると感じています。
顧客と向き合ってきた営業が、AIを活用しながらエンジニアリング能力で顧客に貢献する形です。
私自身、これまで営業/コンサルタントとして顧客の課題解決に関わってきましたが、現在はAIを活用しながらコードを書き、エンジニアと連携しながら、システムの設計や開発にも携わっています。
AIの進化によって、コードを書くという行為は以前よりも多くの人に開かれたものになりました。
そこで感じているのは、単に「自分で作れるものが増えた」という変化だけではありません。
顧客から相談を受け、課題を整理し、解決策を考えるプロセスそのものが変わりました。
顧客の話を聞きながら、その場でシステムの構造やデータの持ち方、運用方法まで考えられるようになったことで、課題解決のスピードが一気に上がりました。
自分自身の経験から、FDEというワードを聞くと、自分なりの考えが浮かぶようになりました。
FDEは、必ずしもエンジニアが顧客対応力を身につけるという事ではない。
もともと顧客と向き合ってきた営業がエンジニアリング能力を獲得するという形こそ大きな可能性があるのではないかとという事です。
営業がコードを書くことで起きた変化
営業の仕事は、商材を提案して受注することだけではありません。
顧客の事業を理解し、言葉になっていない悩みを整理し、何が成果を妨げているのかを見つけることが重要な仕事だと思います。
その際に、顧客から受ける相談は、最初から明確な要件になっているとは限りません。
「売上を伸ばしたい」「業務を効率化したい」「データを活用したい」といった抽象的な願望から始まる事が多いです。
そこで重要なのは、事業内容や具体的な現場の業務、体制、従業員の状況などを踏まえ、問題や課題を一緒に探すことです。
以前であれば、営業が顧客と整理した課題をエンジニアに伝え、技術的に実現できるかを確認する必要がありました。
ところが、自分でもコードを書くようになると、顧客の話を聞く段階から技術的な実現方法を並行して考える事が出来ます。
どのデータが必要になるのか。そのデータはどこにあり、どう運用するのか。
システム化によって本当に業務が楽になるのか。
こうした問いが、顧客と会話をしながら頭に浮かぶようになりました。
FDEは本当にエンジニア出身が最適なのか
FDEは、顧客の現場に入り込み、課題を理解し、技術的な解決策を実装する役割として語られることが多いです。
その説明からは、”エンジニアが顧客のそばへ出向く”というイメージが一般には多いと思います。
しかし、その反対の方向性もあると感じています。
顧客との折衝や課題整理を担ってきた営業が、AIを活用しながらエンジニアスキルを身につけていく方向性です。
顧客との信頼関係をつくる力や、曖昧な相談から論点を見つける力は、まだAIで身につくものではありません。
相手の言葉の意図や背景を読み、実現可能な形に整理するには、営業としての経験の蓄積が必須です。
一方、エンジニアリングも従来は長い学習を必要とする専門領域でしたが、AIによって大きく変わりました。
ここには、能力獲得の非対称性があるのではないかと思います。
対人能力や顧客理解には、現場で人と向き合ってきた時間が強く影響する。
その一方で、技術の学習と実践にはAIという強力なツールがサポートする。
そうであれば、すでに顧客理解を蓄積した人材がエンジニアスキルを獲得するルートは、AIが使える以前よりはるかに容易になっています。
これは「営業人材の方が有利とか優位がある」という意味ではありません。
エンジニアにも高いコミュニケーション能力を持つ人はいますし、営業の人がみんな開発が出来るというわけでもありません。
ただ、FDEという概念が盛り上がる中で、営業人材にこそ可能性があるのではないかという見方です。
顧客は「何を作るべきか」を知らない
弊社が関わっているプロジェクトの一つに、業務効率化を目的としたDX案件があります。
クライアントからの最初の要望を端的に表現すれば、「効率化したい」というものでした。
「どの業務を、どのように効率化したいのか」といった点は整理されていません。
これは珍しいことではないと思います。
日々その業務を行っている人は、工程が細分化された業務を行っているわけではなく、属人的な所があります。
また、システムによって何が可能なのか分からなければ、具体的な要望を出すことも難しいです。
だからこそ、プロジェクトは、これを作ればよいという要件を受け取るのではなく、業務と課題を整理するところから始まります。
何に時間がかかっているのか。
どの情報がどこに保存され、誰がいつ更新しているのか。
例外的な処理はどこで起きるのか。
効率化した結果、現場の運用は本当に楽になるのか。
こうした点を一つずつ明らかにしていく。
FDEの価値は、近くにいるから顧客が言ったものを速く作れるという事ではありません。
顧客自身もまだ分かっていない「何を作るべきか」を、対話と技術をセットにして一緒に見つけることだと思います。
フロント業務と開発業務を分断しないことの価値
フロント担当とエンジニアが役割を分ける従来の進め方には、それぞれの専門性を生かせるという明確な利点があります。
大規模な開発や高度な専門性が必要な案件では、分業は欠かせません。
一方、顧客の課題がまだ曖昧な初期段階では、ビジネスと技術を一人の中でつなげられることが大きな価値になると実感しています。
役割が分かれている場合、まずフロント担当が顧客の話を聞き、課題を整理する。
次に、それをエンジニアへ伝え、実現可能性や工数、設計上の制約について回答を得る。
その回答を受け、フロント担当が再び顧客へ説明し、調整する。
必要であれば、追加の確認を行い、再度エンジニアへ相談する。
この進め方では、関係者が丁寧にコミュニケーションを取っていても、情報を受け渡すたびにどうしても解釈が加わります。
顧客の発言に含まれていた細かなニュアンスが落ちたり、エンジニアの意図が顧客へ正確に伝わらなかったりする可能性があります。
受け渡しの回数が増えれば、齟齬が生まれる機会も増えていきます。
自分で顧客と話し、自分で技術的な設計も考えられる場合はどうでしょうか。
相談を受けた時点でゴールの絵がある程度浮かび、実現上の制約や代替案も含めて会話できます。
難しいことは難しいと早い段階で伝えられ、別の方法があればその場で提案ができます。
その結果、第一に意思決定が速くなる。第二に、認識齟齬の機会を減らせる。そして、第三に、顧客が満足する。
AIでコードが書けても、技術力は必要である
ここまでの話は、「AIがあれば誰でも簡単にシステムを作れる」という事を言いたいわけではありません。
AIにコードを生成してもらうことと、そのコードや設計の妥当性を評価できることは別だからです。
ビジネスとして開発に関わる以上、最終的にはコードの意味を理解し、設計上の問題を見つけ、安全性や運用上のリスクを判断できる技術力は必要です。
動作したから完成、というわけにはいきません。
ただし、営業人材が最初からすべての領域を理解することは不可能です。
一方で、責任範囲とリスクを管理しながら、段階的に技術を習得することはできます。
それに、営業人材だけで開発するわけではありません。
分からないところは、エンジニアと連携すればよいのです。
また、営業人材ならではの強みとして、「怖さを知っていること」があると思います。
自分がまだ理解し切れていない技術への怖さと、顧客に迷惑や損害を与えることへの怖さです。
この怖さは、調べる、検証する、慎重に作る、といった姿勢につながります。
ただし、慎重であること自体が安全性を保証するわけではありません。
安全なシステムには、知識、テスト、レビュー、適切な運用が必要です。
だからこそ、やはりエンジニアの存在は欠かせません。
そのうえで、営業人材が今以上にエンジニアリングのスキルを身につけることは十分に可能です。
AI時代、FDEに求められる人材像は変わる
「何を作るか」が明確に決まっている仕事では、高い専門性を持つエンジニアの方が向いているかもしれません。
純粋な開発速度や技術的な深さが求められる場面も多いからです。
しかし、顧客の相談が「効率化したい」などの要望であり、何を作るべきかさえ決まっていない仕事では、別の強みが必要になる。
顧客の言葉を聞くだけでなく、その背景にある業務や事業を理解すること。
課題を整理しながら、技術的な実現可能性を考えること。
顧客と期待値を合わせ、実装後の運用まで見据えて意思決定すること。
こうした複数の能力を一体として発揮する必要があります。
AIによって「どう作るか」の障壁が下がったことで、「何を作るべきか」を見極められる人材の価値は相対的に高まっています。
これまで顧客と向き合ってきた営業は、そのための土台をすでに持っていると思います。
だからこそ、これからのFDEは、エンジニアがビジネス側へ近づくという一方向だけでは無いのかなと思っています。
フロント人材が本格的な技術力を身につけ、顧客理解から設計、実装、運用までをつなぐ方向も、より現実的になっていって良いと思います。
FDEの本質は、コードを書くことそのものではない。
顧客の曖昧な要望を解きほぐし、何を作るべきかを見極め、スピード感を持って実現し、その結果に責任を持つことです。
AI時代に大きな価値を生むのは、ビジネスとエンジニアリングの境界に立つ人ではなく、その境界を越えて考え、動ける人なのではないでしょうか。